ソケイヘルニアに対する最新治療法
形状記憶inlayメッシュ(クーゲル法)によるソケイヘルニア日帰り手術
当院では平成15年1月より"ソケイヘルニア(脱腸)"の標準術式として"クーゲル法"を採用し、日帰り手術を原則としております。
術後2時間で自力歩行でき,自尿を確認後の術後4時間ほどで帰宅可能となります。
("クーゲル法"は、米国のクーゲル博士が開発した、新しい手術方法です)
この10数年間で成人ソケイヘルニア手術は大きく変化し,人工補強膜であるメッシュを用いた手術が主流となりました。
ソケイヘルニアは,腹壁を支える筋膜に裂け目ができ,内臓や脂肪が腹腔外に脱出する病気です。従来の古典的な手術は裂けた筋群を縫い合わせて補修する方法ですが,もともと脆弱な筋群ですので,術後再発率は15%以上と高率でした。また,裂けた筋群を縫い合わせるため,腹壁がつっぱり,術後1週間は入院と安静を必要としました。しかし,メッシュを用いたtension-free(つっぱりのない)手術の出現で,術後の安静は不要となり,再発もほとんど見られなくなりました。
メッシュを用いたソケイヘルニア手術は,筋膜上にメッシュを固定するonlay法と,筋膜下の腹膜前腔にメッシュを挿入するinlay法に大別されます。筋膜上にメッシュを固定するonlay法に比べ,筋膜下の腹膜前腔にメッシュを挿入するinlay法のほうが,腹圧に耐えて腹壁を支える点で力学的に明らかに優れています(図1)。
Onlay法とInlay法
現在,その手技上の簡便さから多くの施設で汎用されている前方アプローチ法(mesh plug法,PHS法)はソケイ床全体(腹壁の脆弱な部分)をinlayメッシュで完全に覆うことは不可能であり,実質的にはonlay法に近い術式とされています。一方,腹腔鏡下ソケイヘルニア手術は腹腔内あるいは腹膜前腔アプローチにより,inlayメッシュをソケイ床全体に固定し補強することが可能でした。
当院では腹腔鏡下胆嚢摘出術を中心に内視鏡手術を手掛けてすでに10数年が経過しましたが,その中で腹腔鏡下ソケイヘルニア手術も約300例に施行し好成績を得てきました。しかし,腹腔鏡下ソケイヘルニア手術は解剖学的に理想的なソケイヘルニア手術とされるものの,全身麻酔を必要とし,むしろ大掛かりで,腹腔鏡下胆嚢摘出術ほどは広く普及するには至りませんでした。
ここに紹介する”クーゲル法”は,腹腔鏡下でのinlayメッシュの挿入・固定をそのまま直視下で行えるように工夫された新しい手技で,全身麻酔の必要もありません。
Kugel法の特徴
鼠径管を開放しない腹膜前腔アプローチ
- 本来のヘルニア防止機構を温存
- つっぱり感や異物感がない
- 神経損傷の危険が少ない
- パッチがずれにくい
- 3cmの皮膚切開で創痛が少ない
形状記憶メッシュ(クーゲルパッチ,図2)のため,折り曲げて挿入しても腹膜前腔スペースで12 x 8 cmの楕円形メッシュがソケイ床全体を覆うように広がる仕組みになっており,皮膚切開は個人差がありますが最小で3cmです。前方アプローチ法とは違ってソケイ管を全く開放しないため,本来のヘルニア防止機構を損なうこともなく,神経損傷も少ない安全な方法です。形状記憶メッシュが腹壁の脆弱な部分をすべてカバーするため再発の心配もありません(図3)。メッシュは筋膜の下に挿入されているため,つっぱり感や異物感もほとんどありません。
Kugelパッチの配置
腹膜前腔の解剖(左鼠径床)
”クーゲル法”はメッシュの固定を簡単に行えるように工夫してあり,切開や縫合も少ないため,手術時間は他のヘルニア手術よりも有意に短く,当院では症例数の増加に従い,現在では平均手術時間は20分前後まで短縮しました。大きなソケイヘルニアもまったく問題なく修復可能です。疼痛や術後愁訴が極めて少ないため,日帰り手術に最も適した術式と考えています。
※ソケイヘルニアの手術症例数は、2400例以上。
※クーゲル法による"日帰り手術"の症例数は、1300例以上。(2010年12月現在)










